歌舞伎のお芝居中、バッタバッタと板を打つ音や、チョン!と高い音が鳴ったりして、その場の雰囲気を引き締めたり盛り上げたりする効果音があります。それが「拍子木」や「ツケ」と呼ばれる木の音で、歌舞伎のさまざまな効果を表現します。
それでは「拍子木」や「ツケ」は、主に歌舞伎のどんな場面で使われているのでしょうか?
ここでは、歌舞伎の舞台で使用される、「拍子木」、「ツケ」について、ご紹介したいと思います。
拍子木はどんな場面で使われるの?
「拍子木」は、歌舞伎以外に、現在でも町内会の防犯パトロールなどで使うところがあるようなので、ご存じの方も多くいらっしゃると思います。二本の長方形の木を打ち合わせ、文字では「チョン!」と表現されるような高い音を出します。この拍子木自体と音の両方を、歌舞伎では「柝(き)」と呼びます。
歌舞伎の「拍子木」は、通常、客席からは見えないところで打たれています。演技のきっかけを作ったり、役者に時刻を知らせる際に打ち鳴らされます。
場面的には、お芝居が始まる時や幕切れの場面で打ち鳴らされることが多いです。終演の際に「チョンチョンチョン…」という拍子木の音に伴って幕が引かれたり、廻り舞台を使用した場面転換の際にも、太鼓などと一緒に効果音としてよく打たれます。
また、幕切れの前、役者の最後の台詞や所作の直前に「チョン!」と一本音を鳴らして、それを合図に幕が閉まるという役割もあります。これを「柝頭(きがしら)」と言います。
「柝頭」は、役者が見得をきる場面の、ここぞ、という瞬間で打たねばならないため、そのお芝居を締めくくるタイミングを見極める役目を担っています。
ツケはどんな場面で使われるの?
「ツケ」は、舞台上手(舞台に向かって右側)の端、客席から見える場所に黒い衣裳で座ります。役者の動きに合わせて、ツケ板と呼ばれる板に木を打ち付けて出す効果音で、動作や足音、物音を強調します。
ツケを打つ担当者を「附打ち」と呼びます。もともとは、役者付のお弟子さんが担当していたそうですが、近年では大道具方が受け持つようになったそうです。
附打ちは、物語の重要な場面に差し掛かると、舞台に出て「ツケ」を打ちます。登場人物が表現する所作や、大道具、小道具の仕掛けの印象付けにも使われます。
例えば、主要な登場人物が花道を駆けていく様子などを「ツケ」で表現する際、女性の走る音は「パタパタパタ…」と小刻みに柔らかく打ちます。
対して、英雄の登場の際には「バタッ!…バタッ!」と大きくゆっくりと打って、堂々と力強く歩く様子を表します。足音ひとつを表現するにしても、立役、女形、子供衆、老け役など、それぞれに打ち分けがあるそうです。
花道の引っ込みの際に、手足を振り上げて物凄い勢いで走っていく「飛び六法」では、附打ちの音でさらに迫力が増します。これは歌舞伎ならではの見せどころで、客席も盛り上がります。
また、大切な物を落とす場面などでは、通常は音のしない手紙のようなものでも、より強調させるために音を附けるそうです。音を附けることで、登場人物の感情の変化に気付かせる意味があるといいます。
現実には音がしないものを表現するという意味では、「見得」を切る場面が「ツケ」の真骨頂といえるかもしれません。力強さを表現する幕切れの打ち上げ見得などは、最高の見せ場となります。
「ツケ」は世話物、時代物、舞踊など、狂言の違いによっても、それぞれ打ち方が異なるそうです。さらに附打ちは、それぞれの役者の動きや呼吸に合わせなければならないため、高度な技術が求められます。
見得につきましてはこちらの記事で解説しています。合わせてご覧ください。
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歌舞伎に不可欠な「附打ち」
現在の附打ちは大道具方が担っていると前述しましたが、連日一番と言っていいほど芝居を見ているため、幕が開いてからのさまざまなハプニングにも対応する、監事役とも言われているそうです。
「拍子木」も「ツケ」も、歌舞伎を作り上げる上で欠かすことのできない重要な要素です。しかし大きな興行で活躍できるようになるには、何年も修行を積まなくてはならないと言います。
伝統芸能である歌舞伎の歴史を受け継ぎながら、新作歌舞伎も進化していくため、後継者を育てることが目下重要な課題となっているようです。